六本木で40年!天才職人が伝える鮨と粋、奈可久(なかひさ)【閉店】

※2023年に引退され、閉店となりました。

こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(f:id:edomae-sushi:20201002142555p:plain@sushilog01)です。

再開発で格段に綺麗になった六本木。

昔の猥雑でカオスな雰囲気は影を潜め、お洒落なイメージの方が強いのではないでしょうか?

そのような変わりゆく六本木で40年以上変わらぬ魅力を伝え続ける鮨店が、「奈可久なかひさ」です。

親方の鈴木隆久さんは叩き上げの職人であり、早熟の天才職人。

1970年代に修業期間わずか8年、26歳で独立!

鮨バブルの今の時代だからこそ、鮨と味が分かる人には訪問して頂きたい名店です。

「銀座の御三家」奈可田の系譜

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まず、「奈可久」は「銀座の御三家」の系譜にある親方のお店です。

ただ、現代の鮨好きにとっては、「銀座の御三家」って何じゃそりゃ??って感じかもしれません。

「銀座の御三家」とは、京橋与志乃、久兵衛、奈可田を指します。

店名を出せば、「ああ、なるほど」と思う方もいらっしゃるでしょう。

「奈可久」の鈴木親方は店名が示す通り、「奈可田」で修行された職人さんです。

ただ、京橋与志乃と奈可田は敢え無く閉店してしまったので、残るのは「企業」として成功した久兵衛のみ。

2店が閉店した現在となっては、「銀座の御三家」の呼び名は完全に死語かもしれません。

まして、系譜や伝統を追うよりもインスタのタイムラインを追う鮨の食べ手の方が多くなった現在。

すしログ

このような世の中では、老練の職人さんのお店やその系譜を巡る人こそ、本物の鮨好きだと個人的には感じます。

老練の職人さんの握りには、確かな個性が宿っていて、江戸前仕事の凄味を感じさせてくれますので。

「奈可久」鈴木親方の比類ない魅力

鈴木親方は「奈可田」で修業されて、六本木で独立されました。

冒頭に記載した通り、修業期間は異例の短さで、わずか8年です。

しかも、独立されたお歳は26歳!

独立の年は1979年なので、時代背景を考えると当時は衝撃的な年齢だったと思います。

ただ、現在聞いても驚くほどに若い独立ですよね。

今の時代でも20代半ば〜後半に独立される職人さんは注目を集めるので。

更に言うと、鈴木親方は奈可田の中田一男氏と良好な関係を続けられた点もお人柄を表しています。

昨今、若くして独立される方で、修行先の親方と喧嘩別れするケースを多々伺いますので…

これはビジネスマンと同じく、古巣を去る時は「立つ鳥跡を濁さず」を実現できるかどうかで器が問われる気がします。

そして、鈴木親方は老境に入ってもおごるところが全く無く、温和な方です。

昔はマナーの悪いお客を放り出していたそうですが、現在は一見の若いカップルにも優しい接客を行っておられます。

その心は、文化の伝達。

鈴木親方は「後世に文化を伝えたい」と言う想いが強い方です。

よって、温故知新の面白さを吟味できる方であれば年齢は問わず、楽しませて頂けます。

六本木で40年と言うキャリアには、簡単には言い表せない「人生の密度」があります。

それは、鮨の仕事にも表れています。

鈴木親方の仕事は堂に入っていて、唯一無二です。

今や多くの若手職人さんが使う数々の仕事を考案したのも鈴木親方の功績…

例えば、【車海老の黄身酢オボロ漬け】、【薄切りにした鯖の3枚づけ(握り)】、【コノシロの雪花菜漬け】など。

ご存知の通り、【車海老の黄身酢オボロ漬け】はすし匠の中澤圭二親方が得意とされていて、実際に奈可久さんに食べに来られたそうです。

なので、奈可久の鈴木親方が編み出した仕事である事を知らずに自ら用いる職人さんも多いはず。

これこそが文化の伝承であり、偉業ですね。

高額なおまかせ一本で繁盛していながら、個性の表現に迷っている職人さんは、一度鈴木親方の仕事を体感されると良いかと思います。

色々な意味で「これが鮨だ」と原点回帰し、初心を思い出せる事でしょう。

そして、自らの「次世代の仕事」を編み出せるかと思います。

最後に、鈴木親方のシャリは米酢のみで、酸味を立てつつ砂糖を少量使用したものです。

現代のトレンドである「赤酢、砂糖不使用、塩強め、硬め」のシャリとは異なりますが、見事にほどけます。

「奈可久」の立地と雰囲気

お店は「えっ!?ここにあるの??」と言う意外な場所にあります。

すなわち、ミッドタウンの真ん前。

超一等地の地下に「奈可久」はあります。

ミッドタウンは防衛庁本庁の跡地ですが、防衛庁本庁の頃は大変静かであったそうです。

▶興味のある方向け:東京ミッドタウンの公式サイト

店内に入ると「奈可田」のアイコンである「氷柱」が佇み、カウンターは20年モノの木曽ヒノキを用いた立派な白木のカウンターです。

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20年前に現在の地に移転した際、敢え無く切らなければならなかったそうですが、もともとは一枚板と言うので、今では作る事が難しいカウンターでしょう。

お店は六本木のド真ん中にありながら、時が止まったような静謐な空間です。

少し渋い雰囲気であるかもしれませんが、これこそが鮨店と言う粋な風情があります。

現代の鮨店の施工は「格好良い」ものは多数あっても「粋」であるものは少数です。

よって、「奈可久」のカウンターに腰掛けると、現代では貴重な「粋」を味わうことが可能です。

鮨店とは、鮨の味だけでなく職人さんの味と雰囲気も味わうもの。

それが「さらしの商売」である鮨職人さんと対峙する魅力であり、鮨店が「劇場」であり「至高のエンターテインメント」たる所以です。

「奈可久」の酒肴と握りの詳細

まず、「奈可久」さんで一つ特筆すべきは、お酒の楽しませ方です。

銘柄は白鷹の純米1種類のみなのですが、3種類の飲み方で提供されています。

ひや(常温)と燗に加えて、マイナス30℃でシャーベット状に氷結させたもの。

これが面白い。

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シャーベット状なのにアルコールが分離しておらず、きっちり日本酒の旨味と香りを楽しめるのが独特です。

親方が試行錯誤して開発されたそうです。

2021年4月訪問時に頂いたもの

煮蛸

奈可久煮蛸
超ホロホロで、きめ細かく繊維がほどけゆく!

煮る時間は3時間半。

桜煮の命名者は奈可田の中田一男親方と聞いて、驚いた。

鯛と鮃

奈可久鯛と鮃

鯛は竹岡産で、鮃は小柴産。

寝かせる時間はせいぜい1日~2日で、それ以上置くことはされない。

香りと強い旨味を楽しませてくれる。

タイラギ

奈可久タイラギ

肉厚で旨味が強い!

繊維はみっちりしていて、噛み応えがある。

この旨さの秘訣が仕事である事は言うまでもない。

塩で〆た上、軽く寝かせている。

鯖と鰯

奈可久鯖と鰯

鯖は高知産。実にキリッとした〆加減!

〆加減に妙があり、お酢の酸味が入るよう、塩の時間を設定されている。

青柳と北寄貝

奈可久青柳と北寄貝

磯辺焼きにしたもので、貝ごとの香りと甘みを楽しませてくれる。

青柳

青柳の串焼きは鮨店らしくて大変魅力的な酒肴!

これにはテンションが上った。

鯛の兜煮

奈可久鯛の兜煮

上品な出汁が魅力。

煮鮑

奈可久煮鮑

むちっと心地良い反発がありつつ、あくまでも柔らかく仕上げられた鮑。

周りはとろりとしている。

香ばしい煮ツメも実に良い。

この後、握りに移行します。

奈可久鯛

昆布〆でむっちり且つしっとりな食感。

昆布の旨味を割と含ませているが、香りは上品だ。

小柱軍艦

小柱軍艦

意表を突くタイミングだが、これぞ奈可久の定番の流れ。

小柱の甘みは流れ的に違和感が無く、船橋三番瀬の海苔の香りが食欲を刺激する。

小鰭

奈可久小鰭

みしっとした食感のしっかり〆だが、甘みを感じさせる!

若手職人よりも長めの倍以上の時間をかけて〆ている。

奈可久鯵

鯵も〆て旨味を凝縮させている。

車海老

奈可久車海老

みしっとした煮加減で、甘みがこみ上げ、黄身酢オボロの甘みと協奏する。

噛み締める喜びのある車海老。

鮪赤身

奈可久鮪赤身

切り身で漬けにしているので、ねっちりとした食感で、濃密な味わい。

多くのベテラン職人と同様にアイルランド産を使用。

その心を伺ったところ、時期がアウトなのは勿論ながら、国産クロマグロに最も似ているのがアイルだと言う理由。

脂もさることながら食感がしっとりしている点が決め手。

今回頂いた鮪だと、香りも国産に近いように、次の中トロで感じた。

これも一つの選択肢だ。

鮪中トロ

奈可久鮪中トロ

繊維がきめ細かく、香りも良い。

海外産(大西洋クロマグロ)だと脂が濃厚過ぎることもあるが、親方の仰る通り、確かに国産の大間に近いテイストがある。

鮪の勉強は面白い。

穴子

奈可久穴子

宮城産。とろりと柔らかいが、繊維はほろり、しっとりとほどける。

そして、繊維がシャリと一体化する。

トロトロ穴子ではなく、繊維を感じる穴子で一体感が高いと見事!と感じる。

奈可久蛤

見た目を1ミリも裏切らない素晴らしい味の煮蛤。

玉子

奈可久玉子

海老の卵を使用。

存在感があるが、しっとりとほどけ、香りも良い玉子。

肉厚でも軽やかだ。

トロ鉄火巻き

奈可久トロ鉄火巻き

部位は中トロで、鮪の比率が圧倒的に高い!

鮪をたっぷり使う理由は、鈴木親方が鮪の少ない鉄火巻きが嫌いだからだそう(笑)

スペシャル太巻き 追加

奈可久スペシャル太巻き
干瓢、椎茸、海老の黄身酢和え、玉子、穴子を使用した鮨好きならば悶絶級の太巻き。

鮪の大トロやネギトロ(ねぎったトロ)などの脂が多すぎる太巻きを喜ぶ風潮があるが、個人的にはこちらの太巻きの方が万倍好み。

仕事を施したタネが共演する太巻きは、なんと贅沢な事か。

鮨店で最後に重く感じさせない点は粋の極みであろう。

2020年8月訪問時に頂いたもの

夏に訪問したときの記録です。

煮蛸

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食感が独特。

しっとりした身はむぎゅむぎゅっと凝縮感のある反発を示し、ほろっとほどける。

柔らかくする蛸の煮仕事とは異なる独自性のある仕事。

真鯛と鮃

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握り用ではない魚を刺身に。

真鯛は皮を軽い湯霜にしている。

鮃も香り良く、ともに美味しい。

青柳、イシガキガイ(エゾイシカゲガイ)、タイラギ

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夏が旬のイシガキガイは甘みが強く、香り実に爽やか。

また、タイラギは旨味と繊維質が引き締まった、みっちりした味わい。

さらっと出される刺身に個性があると、大変嬉しい。

鯵の焼きもの

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「どんちっちアジ」との事なので、産地は浜田!

脂の乗りが良く、ベテラン職人さんから愛されるブランド産地。

銀座わたなべの渡部親方も大好きな産地だ。

すしログ No. 286 銀座 鮨 わたなべ

鯵の中心はレアに仕上げ、ぷるんと活き活きした身から脂がジューシィに溢れ出て、香りも良い意味で鯵らしい。

小蛤の酒蒸し

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滋味深い!小ぶりなれど甘み、旨味、香りは紛れも無く蛤。

握りの前に嬉しい一皿。

この後、握りに移行します。

ガリ

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スッキリ味のガリで、酸味に程良い甘みがあり、食感はシャキシャキ。

新烏賊

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かなり柔らかい食感の新烏賊。

しかも、とろりではなく、くにゅりとした柔らかさ。

墨烏賊らしさは強くなく幼い新烏賊か。

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昆布〆が凄い。

昆布の香りを上品に移しつつ、〆加減(脱水)と昆布の旨味は上品。

食感はしっとり。

この塩梅は他には無い。

小柱軍艦

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小柱の美味しさもさる事ながら、海苔の口溶けや風味が面白いと感じて伺ったところ、船橋三番瀬の海苔であり、驚く。

これぞ江戸前海苔で、スサビノリではないアサクサノリ。

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しっかり〆て、脂を楽しませつつ身に回った酢により爽やかに楽しませる。

なお、親方の好きな産地を伺ったところ、予想通り岸和田であった。

光物の〆加減で、なんとなく好きな産地が分かる。

海胆軍艦

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実に甘い!ミョウバンの収斂味は殆ど無い。

通常は無添加の塩水のみを昔から使用されてきたそうだが、今回は浜中・小川のうに。

窒素水を用いて海胆の酸化を抑制し、鮮度の高い状態で出荷出来る会社のもの。

エボダイ

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これも〆加減が良く、ぷりっとした身はパツッと弾けて美味い。

北寄貝

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切り付けが美しい。

ぷりぷりした身は大変甘く、食感もシャクシャクと気持ち良い。

車海老

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これが【車海老の黄身酢オボロ漬け】。

味が刻一刻と変化する魅力がある。

オボロの甘みと車海老の甘みを別々に感じてしまうオボロ漬けもあるが、一体感が高く、美味しい。

鮪赤身

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漬け。サクではなく切り身を漬けた後、寝かせている。

その結果、食感が非常にこなれて、ペースト的ねっちり感を楽しませてくれる。

その上、夏鮪の赤身らしい爽やかさがあり、穏やかな脂も確かに楽しませる仕事。

鮪中トロ

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穏やかな味わいの中トロ。

穴子

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これまたメチャクチャ美味しい。

ホロホロ、しっとりとと繊維質がほどけ、穴子の風味を楽しませてくれる。

濃い味の煮ツメも魅力。

穴子の質感と風味から江戸前ですか?と聞いたところ、正解であった。

玉子

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みっしり感があり、どっしりした玉子。

最後に世の中に出回っていない米焼酎を頂いていると、酒肴を出して頂きました。

鮃の肝と卵、蛸の卵

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珍味系煮物の持ち合わせで、煮ツメで頂く。

全てが手抜かり無く、キッチリと仕込まれている煮もの。

最後に頂き、凄味を再認識した次第です。

「奈可久」のお店の情報と予約方法

予約についてはお電話のみです。

コロナの影響もあり、予約は取りやすい状況です。

奈可久(食べログのリンク)

店名:奈可久(なかひさ)

シャリの特徴:米酢のみを使用し、酸味を立てて砂糖を上品に使用したシャリ。

予算の目安:ひと通り頂き、お酒を飲んで20,000円〜23,000円くらい

TEL:03-3475-0252

住所:東京都港区六本木7-8-4 銀嶺ビルB1F

最寄駅:六本木駅から350m

営業時間:17:00~22:00

定休日:日曜、祝日

親方がお元気なうちは通い続けよう!と心から思う、すしログ(f:id:edomae-sushi:20201002142555p:plain@sushilog01)でした。

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※No. 342の記事に最新情報を加筆リライトしました

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