すしログ No. 124 初音鮨@蒲田

※本記事については、業態が変わる前の内容となります

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昨年(2014年)12月に訪問した初音鮨

この度、約1年ぶりに訪問しました。

訪問時点ではミシュランの星を獲得していながら落ち着いており、あくまでも通な人が通っているお店と言う印象を抱きましたが、今や某口コミサイトの鮨ランキングで全国第2位まで浮上しており、人気の高騰ぶりに甚だ驚いております。

 

初訪問時には「シャリを時間軸で再解釈」している点が非常に面白く、熱々の状態から冷めゆくシャリに独自性の高い仕事を合わせる技に感銘を覚えました。

この度訪問して、シャリの扱いのみならず、仕事の精度やタネのクオリティも向上しており、大きな進化を感じました。

1年足らずで進化をハッキリ感じられるお店は稀有。

しかも、人気が急騰する中で進化するとは、並大抵のことではありません。

その理由は何故か?と考えると、答えは明白です。

ご主人の卓越した「センス」や溢れる「熱意」も当然理由の一つではありますが、最も大きな理由は確固たる江戸前の仕事が根底に有るからだと感じます。

変化球に変化球を重ねる仕事ながらに、鮨の生命線のシャリが高度に安定しており、〆る、漬けると言った江戸前の仕事が踏襲されている点こそが飛躍を生み出しているのではないか。

こちらはもともと1893年から続く街場の江戸前寿司店なので(当代4代目)、今のような人気が出る遥か前より、ご主人が試行錯誤を重ねてこられたことは明らか。

伝統を継承した上で、破壊、進化させてこられたことに心から敬意を払いたい。

そして、女将さんのバックアップも素晴らしく、二人三脚の絶妙なコンビネーションが前にも増して輝いておりました。

「常識の範囲では常識の成功しかない」と宣言されるご主人の握りは、「鮨のバーリトゥード」だと感じます。

 

お店に入ると以前と変わらぬ心地良い酢の香りが漂っており、奥からは杓文字を切る音。

そして、カウンターに座るとすぐに切りたてのシャリの試食。

否応無しに期待が高まります。

こちらの握りは全て手渡しとなります。 

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真蛸

首都圏だと瀬戸内産に匹敵するとも評される佐島産。

塩蒸しだが、ほうじ茶を用いており、「江戸煮」と呼ばれる古い調理法を応用されていると見る。

スタート時点でシャリの温度が高いものの、蛸の温度と合わされる点は見事。

ただ、酢の香りが勝つ点は改善点か。

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小鰭

皮目を逆にする個性的な握り方だが、理由は「小骨から溶かして引き出した旨味」を体感させる為かと。

〆た小鰭は5日間寝かせ、独特の食感を生み出し、小鰭の香りも引き出している。

脂の旨味が突き抜けてきた後に米の甘みが追いかけて協奏する。

トリッキーな握り方ながらに四回の手返しで握られていた。 

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牡蠣

三陸大船渡産。蒸し焼きにしており、ベリーレア。

それでいて生牡蠣特有のクセは除き、良い香りを立てる。

また、香りもさることながら繊細質の切れが素晴らしく、縦にシャクリと切れる。

火入れの妙。

一歩間違えば下品な創作鮨に堕す牡蠣だが、根底を支えるのはシャリとの温度の調和。

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ガリ

このタイミングで初めてガリが出る。

赤酢が強めで酸味と辛味があり、少量で口の中をリフレッシュする。

 

そして、鮪が登場!

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トロは大間の213kg、赤身は168kgと使い分け。仕入れは石司。

鮪は大きい物を喜ぶ方が多い傾向にあるが、脂の質や香りと言う側面で使い分けておられるのだろう。

鮪は全て漬けるので、ひとまずフェイドアウト。

ちなみに、鮪で200kgと言うと、7歳くらいとの事。 

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庄内産。「サゴシ」或いは「サゴチ」と呼ばれる50cm未満のもの。

神経抜き活け締め後に3℃で2週間熟成しており、ご主人いわく「プロシュート」。

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背の身と腹の身を食べ比べ。

奥から香りが力強く主張し、脂が優雅に残って踊る。

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カワハギ

最近メキメキと評価を高める千葉県竹岡産(特に太刀魚が有名か)。

薄塩を振り3日寝かせたものだが、肝は驚くほどフレッシュ。

そして、さらりと溶け去る。

クドさは全く無く、繊細な旨味で脂の粒子がきめ細かい。

 

ここで、遂に漬けの鮪が登場。

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切りつける前から鮪の香りが半端無く、驚きました。

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鮪赤身

有無を言わさぬ赤身の魅力。

香り、爽やかな酸味、嫌味の無い鉄分、ほのかな甘みのバランス。

下に滲んだ瞬間に甘みが強まる(ように認識する)。

(それでも赤身に限れば先日のおとわさんが超えており凄さを再認識)

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落ち鱧

淡路。軽妙な骨切りの後に切り出される、朝6時半まで生きていた鱧。

鱧の香りがストレートに伝わり食感も良く、

この時期に東京(の鮨店)で頂ける鱧とは思えない。

なお、前回伺った時は基本的に柳刃一本でしたが、

この度は鮪用、鱧切りと包丁を複数巧みに使われておりました。

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いくら

塩漬けのいくらを、軍艦にせずやおら握る。

塩分が程良く、濃厚な旨味がただただねっとり絡む。 

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鮪中トロ

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中トロ離れした脂の乗りだが、すんなり腑に落ち、爽快美味。

後味も上品で、鉄分がふわっと残る。

温度は28℃程に調整か?

タネの温度調整に気を払う若手職人さんは、こちらのご主人の握りを食べてみると良いかと思います。

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気仙沼産、定置網に掛かった天然物。

ただ焼いただけとのことですが、皮下の脂がモチっとしており、ある種海苔のようなこなれた香りが印象深い。 

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鱈の白子 

アルバ産白トリュフと合わせており、びっくり。

「流石に行き過ぎてはいないか?」と頂く前は懐疑的だったが、いざ頂いてみると完全に一体化しており感動的。

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香箱蟹と松葉蟹(ずわい蟹) ☓2貫

香箱蟹の身に外子と内子(蟹味噌)を混ぜ、更に松葉の身を加えた贅沢な蟹握り。

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松葉蟹の身の甘み、内子の旨味、外子の食感などが次々襲いかかる。

多層的な味でともすればケバケバしくなるが、落ち着いてきたシャリの酸味がまとめ上げる。

後半に独自性が加速するストーリー性も魅力的。

独自性の高い握りを連発されても飽きないのはご主人のストーリー性による。

…最も、ご主人はひたすら語られるため、実際のストーリーもありますが(笑)しばしばお店を「◯◯劇場」と称される向きがありますが、ハッタリも多いのが現実。

初音鮨の親方は生半可なものではありません。

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鮪大トロ

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漬けにした大トロを炙る仕事。

見た目はさながら牛肉だが、最上級の鮪のパンチ有る脂を漬けで封印しつつ、火を入れることで適度にそぎ落としており、白眉。

炭火で焼いており香りも良い。

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鉄火巻き

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赤身、中トロ、炙り大トロ使用した鉄火巻き。

鮪の荒々しい風味を海苔の香りが包み込む。

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干瓢巻き

醤油はごく控えめで、甘みを立てている干瓢。

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玉子

鱧を使用しており、鱧の香りがバシッと利いている。

食感はとろふわ、ふかふか。 

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全てを頂き、ご主人の仕事に改めて惚れ惚れしました。

紛れも無く創作的な仕事を施す握りとしては、本邦随一。

参考までに昨年頂いたタネの構成は下記の通りで、墨烏賊、鮃、赤貝、小鰭☓2、鮪漬け、鰆、鮪中トロ、牡蠣、いくら、鱈の白子、寒鰤、ずわい蟹、鉄火巻き、干瓢巻き、玉子となりますが、内容の進化に驚嘆を覚えました。

賛辞の多いレビューとなりましたが、こちらは本物です。

更なる進化が楽しみです。

 

店名:初音鮨(はつねずし)

シャリの特徴:甘みを排除し、赤酢と米酢をブレンド。味わいを時間軸でコントロールする。

予算の目安:20,000円~26,000円→2019年よりおまかせ45,000円~→2020年おまかせ55,000円~(前払い)

最寄駅:蒲田駅から360m

TEL:03-3731-2403

住所:東京都大田区西蒲田5-20-2

営業時間:17:30、20:00開始の2回転制 →15:00、17:00、19:00の3回転制

定休日:日曜、祝日 →水曜、木曜、日曜、市場休場日

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