すしログ 〜The Encyclopedia of Sushi〜

全力で鮨の魅力を伝えるブログ!日本料理、郷土料理、和菓子の名店も紹介します。Since 2015

すしログ No. 343 きう@四条烏丸(京都府)

世界観を深化させる新生ひさ田「きう」

岡山にあって今や伝説のお店となった、すし処ひさ田さん。

初めて噂を聞いた2010年頃には情報が少なかったように記憶していますが、この10年で人気が急激に高まりました。

僕も近年お伺いしたいと思っていたのですが、なにせ立地が岡山の赤磐市であり、営業は週3日のみ(金曜夜、土日の昼夜)でしたので、中々狙う事ができずにいたところ、紹介制に変わり遂に訪問を断念するに至りました。

そして、2020年に京都に移転すると言う話は聞いていましたが、自分には縁が無いだろうと思っていた次第。

しかし、ありがたくもお誘いを頂き訪問の機会を得ました。

 

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完全に鮨を頂くためだけの上洛なので、掛かったお金は交通費込みで62,000円ほど。

鮨好きとは言え、一食のためにクレイジーな所業です(笑)

正に清水の舞台からダイブする気持ちで訪問した次第ですが、訪問して良かった!と痛感しました。

久田さんの仕事は独創性が高い「創作鮨」なのに、味覚の構成が緻密です。

ただ思い付きで行う創作は鼻につくものですが、振り切った完成度があると芸術になる実例を感じさせて頂きました。

 

なお、始めに述べておきますと、こちらは紹介制、電話番号非公開、5人の貸し切り制なので、訪問のハードルは非常に高いです。

食関係の有名人やインフルエンサーにありがちなのが、文章中で絶賛して読者の期待値を高めた挙句、もったいぶって最後の方やコメントで「普通の方法では行けないお店」などと書くケースがありますが、あれって下品ですよね。

「特別なお店に行けるオレ」を演出するセルフブランディングなのかもしれませんが、僕は読み終えた後に「結局、お前の自慢話かい!」としか感じません。

前提としてハードルが高いお店である事を明記しますので、それをご了承の上で下記をご覧頂けましたら幸いです。

驚くべきことに京都でシャリまで変えた久田さん

さて、久田さんは大阪で4年間修行した後、1994年に23歳で赤磐市で独立された方。

独創的な鮨は硬派な食べ手の心と舌を惹きつけ続け、2014年に料理マスターズを受賞されました。

人気と共に価格は高騰し、10,000円→23,800円→33,000円(現在)となっていますが、これは儲けを重視してではなく、「自分のハードルを上げる為」と「週3日営業で成立させるため」と言うので、型破りな職人さんです。

ただ、オフの日を設けて人生を充実させると言う発想は、これからの料理人に必要な事だと僕も感じます。

料理人は美味しい料理を提供する「アート」としての側面と、気持ち良い時間を提供する「サービス」としての側面が2つ存在する仕事(であり拘束時間も長い)なので、並大抵のビジネスパーソンよりもキツい仕事だと思います。

鮨とはお客には企業重役も多いジャンルですが、並のサラリーマン役員よりも手練の鮨職人の方がよっぽど人徳を積んでいると感じる事しばしば。

コロナで消費者の行動様式も変わる可能性が高いので、これからの料理人・飲食店像も変わる可能性が高いように感じています。

 

久田さんは京都に移転して、スタイルをガラリと変えられたそうです。

赤磐の「すし処ひさ田」も訪問した事がある同席者の方いわく、驚きの変化との事。

コース内容、提供方法、酒肴の調理など全体的に変えられたのかと思いますが、個人的に驚いたのは、シャリすら完全に変えられた事です。

 

かつては岡山産のきぬむすめと有名な酒米である雄町米のブレンドだったそうですが、現在は新潟産のコシヒカリの天日干し米を使用されています。

さらに、酒米をブレンドしたシャリも稀有ですが、現在はお酢にホワイトバルサミコを使用すると言う、ある種「禁じ手」の調味料を使用されています。

読者の鮨好きな方は「んなアホな!」と思われる方もいらっしゃるでしょう。

僕も文字情報だけ聞いたら、きっとそう思います。

しかし、冒頭で書いた通り、完成度が高ければ亜流は本流に迫る芸術性を獲得します。

魚に施す仕事と味覚的に一致しているので、ホワイトバルサミコの使用なんて些事に感じてくる次第です。

使用する調味料はホワイトバルサミコと塩のみ。

それでいて甘みがあるのが面白い。

バルサミコ由来の甘みです。

キリッと強めな酸味と柔らかな甘みを酢で表現している点が興味深い。

しかも、炊き加減は関西らしい柔らかめである点がチャレンジング。

柔らかめなのに米粒のほどけ加減が良く、全く気にならない個性的なシャリです。

 

そして、酸味と言えば、酒肴も全体的に酸味が用いられているものが多いです。

酒肴は握り以上に個性的で、オリーブオイル、チーズ、果物なども使用されるのですが、酸味がある点がどことなく鮨店らしいです。

食の連続性が高まる事で、どんどん惹きつけられる装置にもなっています。

また、全ての酒肴が、あくまでも和食の範疇に収めている点も強みだと感じました。

西洋由来の調味料を用いても、主たる味わいは和食のそれ。

酒肴については鮨店の酒肴ではなく、最早創作和食の領域にあり、久田さんご自身も「京都では鮨店として考えていない」との談でしたので、納得です。

 

結論として、ラディカルな江戸前鮨ファンの自分であっても、感動を抱く名店でした。

 

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この度頂いたお酒

澤屋まつもと・秋津産山田錦守破離、田酒・純米吟醸、

白糸酒造田中六十五・6513-O(赤磐産雄町)、田酒・純米大吟醸

お酒の価格はビックリするほどリーズナブルでした。

僕は「酒の価格は良心の価格」と考えていますが、久田さんの場合、趣味も入っているなと感じました(笑)

 

京都きう(久田さん)のおまかせの詳細(酒肴)

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鼈とお野菜のスープ

香りからして鼈!

味は濃密な鼈の出汁で、まろやかな味わい。

しかし、上品な方向性。

鼈と言っても一品目で重々しくない。

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更科十割蕎麦

超極細な更科に、オクラと叩いた梅を。

味も食感も実に爽やかな蕎麦。

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ツブ貝、冬瓜、ミョウガ

洒脱。

ツブ貝の軽い苦みと旨味が薬味と爽やかに協奏。

ツブ貝は歯切れが良く、香りも良い。

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甘鯛、岡山産オリーブオイル、ネギと春菊のソース

強い味のソースだが、凄いのが甘鯛の旨味!

五味ではなく旨味でバランスを取っていて、これには唸った。

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煮帆立、桃とパッションフルーツ・芥子のソース

「煮帆立」と言っても火入れは極弱く、低温調理のよう。

非常にしっとりした食感だが、手で潰した後に切り付けているため繊維質も楽しませてくれる。

個性的なソースも相性が良く、違和感は皆無。

芥子の辛味と香りが強めで、爽快。

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胡麻豆腐

非常に滑らかな食感で澄んだ味わいの胡麻豆腐に、濃い胡麻の餡を。

組み合わせが良い。

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鰻、枝豆、ハラペーニョと黒にんにくのソース、最中。

香りと味覚が調和していて、無駄な要素が無いところが凄い。

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ブラックペッパー生麩、吉田牧場のモッツァレラ味噌漬けのペースト、オリーブオイル

生麩にはブラックペッパー生麩を使用しつつ、生麩の香りと食感が良いのであくまでも生麩であり、和食の範疇に収めている。

モッツァレラは香りが良い。

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蒸し鮑

身はむっちりと柔らかさと弾力を兼ね揃えた良い良い火入れで、肝ソースが濃厚濃密。

酢を用いて乳化させている模様。

薬味は茎わさび。

 

この後、握りに移行します。

握りの貫数は8貫+手巻き、玉子。

 

京都きう(久田さん)のおまかせの詳細(握り)

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槍烏賊

パツッと切れてシャリの個性的な味を楽しませる名刺代わりの一貫目。

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石垣鯛

凄い脂の含有量と爽やかな香りが印象的な石垣鯛で、とろける感じとバッツリした食感を両立させた熟成と包丁の仕事。

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むっちり且つしっとりな〆加減。

昆布の香りも残す昆布〆の塩梅。

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アカムツ(ノドグロ)

ひたすらトロットロで、炙った皮の強い香ばしさが残る。

脂主体のアカムツの仕事だが、シャリとのバランスが良い。

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口直し
茄子、ミョウガ、ブロッコリースプラウト。

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エゾイシカゲガイ (イシガキガイ)

爽やかなウリっぽい香りに強い甘みの貝。

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背トロ。漬けに柚子胡椒を噛ませる。

身のねっちり感と脂が印象的で、柚子胡椒の辛味がそれを引き締める。

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天身。こちらも漬け。

背トロとの食感的対比が面白く、肉厚な身はむっちりしてとろり。

こちらは柚子胡椒ではなく山葵を使用。

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鴨の丸、グリーンカレー風味。

鴨の丸はとろとろ柔らかく、グリーンカレーの風味と出汁がバッチリ合っていて、美味しい。

既にクライマックスとなり、独創的な久田ワールドに引き込まれているため、グリーンカレー風味の椀が出てきても全く驚かず、味を素直に受容できる。

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海苔を噛ませ、煮キリの上に塩(藻塩?)。

鯖はとろりとした〆加減で、それ故に海苔の食感が独特に感じる。

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田舎蕎麦

こちらも更科同様に超極細。

長茄子と山葵の餡。

冒頭の更科との対比が面白い構成。

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カッパ巻

キュウリは糠床の浅漬け。

海苔が多めで逆に巻く。

糠の風味が活きていて、海苔はパリッパリで香りが良い。

厚みがありつつ、歯切れが良く、旨味もたっぷり。

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玉子
江戸前カステラ玉子同様に芝海老を用い、帆立の擂り身も混ぜつつ、澤屋まつもとの酒粕、チーズを使用。

これは最早レアチーズケーキ!

完全にデザート志向の玉子で、遊び心がたっぷり。

 

ちなみに、店名の「きう」は久田さんの「久」を古文の仮名遣いで読んだもの。

久田さんの世界観は高度な味だけでなく、お人柄も魅力なのだと感じました。

 

店名:きう

シャリの特徴:なんとホワイトバルサミコを使用し、その甘みを活かしたシャリ。酢が立ち、柔らかめ。しかし、ほどけが良い。

予算の目安:おまかせ33,000円(税込)

最寄駅:四条烏丸駅

TEL:非公開 

※紹介制、5人での貸し切り制となります