すしログ 〜The Encyclopedia of Sushi〜

全力で鮨の魅力を伝えるブログ!日本料理、郷土料理、和菓子の名店も紹介します。Since 2015

すしログ No. 269 櫓鮨@北新地(大阪府)

櫓鮨

現在、大都市では鮨は「ブーム」と言って良い程に盛り上がりを見せており、毎年気鋭のお店が次々と生まれております。

新店が生まれるとともに握り鮨は着実に進歩しておりますが、新たなお店と仕事が、シビアな食べ手によって吟味されている現在。

2020年以降、あるいはその後の近い将来、淘汰が起きてくるのではないか?と個人的に推察しております。

 

ただ、進展目覚ましい鮨において、市井にはまだまだ知る人ぞ知る老舗、隠れた名店があるものだと、今回大阪を巡って再認識しました。

前回の寿し寅さんは大阪鮓でしたが、こちら櫓鮨さんは握りとなります。

櫓鮨さんの歴史

しかも、こちらは100年以上前に東京で屋台から始まり、以来変わっていないと言う握り。

形容するなら「生きた化石」の初期の鮨。

食べログ上では口コミ5件、スコア3.14となっておりますが、実は100年超の歴史を誇る名店中の名店です。

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元々は東京の日本橋に河岸(魚市場)があった頃に創業されたそうですが、関東大震災(1923年)を機に大阪に移転されて今に至ります。

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初代(1868年生まれ!)は体重が30貫(≒112.5kg)を超える巨漢であったそう。

米相場のあった大阪・堂島らしく相場師でもあったそうですが、巷では「櫓の大将が買ったら、売りや」と言われていた模様です。

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そして、二代目は血縁者ではなく浅草出身の気性の荒い昭和の職人だったそうです。

相当荒くれ者の職人であり、遁走逐電する弟子たちの中、現在の三代目・三木利市さんだけが残り、二代目同様に非血縁者でありながら暖簾を引き継ぐ事が出来たそうです。

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写真:右が18歳の頃の三木さん

三木さんは10代で職人修行に入り、二代目から技術を文字通り「叩き込まれた」ようです。

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写真:長年使いこまれた柳刃包丁

御年78歳となる大将から当時のお話を色々して頂きましたが、今では想像がつかないエピソードばかり。

現代となってはエキサイティングに響く話ばかりでした。

まずネットで拾う事は不可能な情報なので、これこそが職人の口から聞く、伝聞の魅力であり、

老舗に伺う魅力の一つだと感じました。

元来、昭和期の鮨店とは、職人さんの人生を肴に鮨をつまむのが魅力。

自分は世代が違うため、「魅力だったそう」が性格ですが(笑)、老練の職人さんの話には、否応なしに人を引き込む魅力、引力があります。

 

さて、こちらのお店は堂島にあって、外観からして渋いです。

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聞けば、1958年に建てられた今や界隈では珍しい町家造り。

キタの繁華街から一本入った細い路地に位置し、喧騒から隔絶されております。

さらに、店内もまた渋い雰囲気。

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この雰囲気を「素敵」だと思える人は、本当の鮨好きだと思います(笑)

カウンターは白木、つけ台は大理石で出来ており、カウンター席前面の壁には鞍馬の赤石が埋め込まれております。

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現在は採石出来ない石との事で存在感が抜群。

昔は水を流して手を洗うとともに、深山の景色を再現していた模様です。

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冷酒は菊正宗の樽酒純米。

これは昔ながらの常温ではなく冷やされた冷酒でした。

本山葵をすられるのを見ながら、杯をくゆらせます。

 

櫓鮨さんの握り

さて、こちらの鮨は手まり寿司に近いサイズ感。

シャリ玉が小さいので手数は少なく、2回程度で鮨となされます。

シャリは温度が低いものの、米粒が立っているので、野暮ッたくありません。

甘みも控えめ。

全体的に思いのほか創作的なタネの使い方でしたが、これは大阪の一等地で独自の発展を遂げた末でしょう。

それでいて、「鮪の温度調整」や「車海老の茹で上げ」など、現代に通ずる仕事もあり、更に老舗なのに「牡蠣の茹で上げ」を握りで提供されたのには驚きました。

ただ、個人的には柑橘はレモンでない方が合うかなと感じました。

何れにせよ、唯一無二の仕事であり、他店で頂けない事は間違いありません。

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先付

大根、鰹節、鶉卵黄身。

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茹で上げの蛸

鍋を熱したところに蛸を入れて香りを引き出し、その後に日本酒で煮る仕事。

古い調理法との事。

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ガリ

意外にも酸っぱく、塩も利かせたもの。

箸休めに紫蘇の千切りも付いているのが個性的。

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鮪トロ

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中トロ

「トロ」と「中トロ」の違いは謎。

関西であり老舗でもあるため、鮪に過度な期待はしていなかったが、何気に温度が室温に馴染まされており、脂がとろっととろける。

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鮑のへそ

「へそ」とはなんぞや!?と思ってお伺いしたところ、「貝にへばりついている部分の上側の身」との事。

これは良く、柔らかい上に食感も楽しめる。

鮑は「蒸し」が握りに一番合うものだが、この部分は生の鮑を巧く握りに合わせている。

柑橘がレモンだったのは意外。

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車海老

店内の水槽から上げた活きの海老!

レモンに加えて塩が食卓塩でビビったが、不思議と馴染む(笑)

このあたりはお店の雰囲気も影響しているのだろう。

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海胆イカ

海胆のクオリティが危ぶまれたが、中々。

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牡蛎

茹で上げを塩とレモンで。

レモンは蛇足ながら、これは良い!

老舗で頂くタネとは思えず、一周回って斬新に感じる。

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海苔、レモン。

鯵の脂はさっぱり。

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イカ納豆!

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海老の頭

香ばしく焼いて提供。

無駄が無いと言うのが嬉しい。

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ハリイカ

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茗荷トロ

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穴子

1尾丸々握るスタイル。

1917年(大正6年)創業の英ちゃん冨久鮓でも頂いたが、味わいは意外にも上品。

大将は「食べにくいかも…」としきりに仰られたが、「いやいや、食べにくいのではなく、食べ応えがあるって事ですね」と返答。

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カイワレ
さっぱりと〆。

 

以上を頂き、お会計は9,000円。

こちらは人によって評価が大きく分かれる事でしょう。

モダンな鮨が好きだったり、歴史に関心が無かったりする人には響かないのは確実。

しかし、自身の心には響き、お伺いして良かった!と痛感しました。

大将が「東京オリンピックまでは生きようかと…」と仰られた際、「大阪万博もあるやないですか!」と力強く返答したものです。

ご健康を祈念しております。

 

店名:櫓鮨(やぐらすし)

予算の目安:上記の通り日本酒2合を加えて9,000円ほど

最寄駅:大江橋駅から300m、北新地駅400m

TEL:06-6341-7566

住所:大阪府大阪市北区堂島1-1-20

営業時間:???

定休日:日曜