すしコラム No. 3 マグロが危ない!漁獲量激減の真の理由とは何か?

※本記事は2018年11月9日にアップし、その後改訂を重ねています

こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(f:id:edomae-sushi:20201002142555p:plain@sushilog01)です。

早速ですが、読者のみなさまは、マグロの漁獲量が減少している事実をご存じでしょうか?

また、その理由をご存知でしょうか?

理由は幾つか考えられますが、中にはショッキングな人為的な理由もあります。

鮨(寿司)好き民族の日本人としては、みんなが知っておかないといけないので、今回筆を執りました。

すしログ

重いテーマになりますが、このようなお話は、食が好きな人は知っておくべきかと思います。

お付き合い頂けましたら幸いです。

そして、消費者が意識を持って、マグロの絶滅を止めましょう!

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マグロを取り巻く問題

日本人ならば多くの人が好きなマグロ。言わずもがな、最高に酢飯に合う鮨種の一つですよね。鮨だけでなく、漬けにして丼で食べても最高。しかし、昨今、漁獲量が激減しているのです。しかも、サンマやイワシとは違って減少理由がハッキリしているのに、減り続けている状況です。

自身の問題意識が強くなったのは1年以上前(2016年)。意外にも、食べる事が好きな人でも減少の「理由」を知らない人が多いことに気づきました。

また、料理人の方でも、減少の最たる原因であるまき網マグロ」に無頓着な方がおり、ショックを覚えました。なぜ、自分が調理する食材のことを知らないのか?と。これは僕も料理好きなので、ショックに感じたのです。

なので、極めて微力ながら一石を投じる事が出来れば…と今回の記事を書かせて頂きます。

すしログ

記事執筆後の2019年から2020年にかけて、大手メディアでもマグロの問題が大々的に採り上げられるようになり、心強く感じています!

さて、徐々に本題に入ります。

鮨や日本料理が好きな人であれば、昨今魚の不漁に伴い、価格が全般的に高騰を続けている事はご存知かと思います。中でも減少の理由がハッキリしていながら、悲惨な状況に追い込まれているのが太平洋クロマグロ(日本で獲れるマグロ)です。

実は、太平洋クロマグロだけでなく、大西洋クロマグロもかつては資源量が大きく下がりました(※大西洋クロマグロはその名の通り大西洋…地中海、メキシコ湾、カリブ海などに生息)。そこで、2000年代に2010年まで漁獲規制を行ったところ、V字回復となり、なんと5年ほどで元の資源量に戻りました。しかし、我らが太平洋クロマグロは初期資源量の2.6%にまで落ち込んでいる「惨状」です。

何故ここまで!?と驚く方の方が多いでしょう。

理由はグルメブームでマグロが乱獲されたせい??

いやいや、そんな事は無く、原因は明白であり、鳥取県境港沖の「まき網漁」となります。

鮨店などの一部のお店のために「はえ縄漁」や「定置網漁」、もしくは「一本釣り」で獲るならば、サステナビリティ(持続可能性)は担保できるはずなのです。

マグロ問題の現況である境港のまき網漁とは?

マグロは回遊魚となり、日本では夏に日本海を遡上して、初冬に青森から北海道で獲れるマグロが最も脂が乗っております。「大間のマグロ」と言えば、正月の初セリがテレビに紹介されることから、高値が付く事は広く知られるところですよね。

なぜ美味しいか?の理由は、ひとえにエサです。

津軽海峡のスルメイカは脂が乗っており人間が食べても美味しいのですが、マグロもまた冬を前に大量に食べて身を太らせます。魚も動物も、美味しい食事をした方が美味しくなるのが当たり前ですよね。

 

マグロは6月~8月に日本海で産卵を終え、各海域でエネルギーを蓄えながら、7月頃から冬に向けて北へ遡上します。しかし、まき網漁は正に産卵期の6月~8月に、産卵場である鳥取県海域で行われます

産卵のために特定の海域に集まってくるマグロ。それを、まき網漁はソナーで魚群を特定し、直径1キロほどの網で約100トンの魚を捕縛します。わずか1日で、大間で獲れるマグロの1年分を大量捕獲。正に一網打尽。最も美味しくなる前に、マグロが虐殺されている状況です。言うまでもなく資源管理の観点としてムチャクチャな状況です。

※産卵期の魚類は美味しくありません。一般的に「旬」とは産卵期の前を指します。

そして、まき網漁でもう一つ問題なのが「身焼け」です。上記の通り巨大な網で一網打尽にするため、マグロが暴れて身がズタズタになってしまいます。一言で言うと、マグロの味をマグロ自らが壊し、不味くしてしまうのが「身焼け」です。

マグロは高速で泳ぐため、もとから体温が高い魚ですが、暴れると40℃を超え、身が焼けてしまうのです。結果として、通常ならキロ1.5万円〜3万円、高い時で5万円以上付くはずのマグロが、キロ500円以下(最安値は200円、100グラム換算で20円!)で叩き売りされます。

参考情報:有名なマグロ仲卸である藤田水産社長のブログ

しかも、境港ではまき網漁を行う3社だけで1日300トン以上獲られる日もあるとされます。しかし、メディアでは「産卵期のマグロを乱獲」ではなく「今年もマグロが大漁!」と報道します。

 

ちなみに、前述の大西洋クロマグロについては、産卵場が地中海とメキシコ湾となります。しかし、メキシコ湾では通年禁漁となっており、地中海では産卵がほぼ終わったタイミングで漁が解禁されます(5月下旬)。日本もこの姿勢を見習うべきなのですが、水産庁は動く気配がありません。

サステナビリティ(持続可能性性)の高いマグロ漁とは

反対に、鮪漁における良い例を挙げてみましょう!

マグロの「手当て(漁獲後の処置)」の丁寧さで名を馳せるのが、大間の向かい側の北海道・戸井漁港です。

戸井ではマグロは全て延縄漁(詳細は後述)で獲られ、釣り上げたマグロは瞬時に締められ、放血(血抜き)と神経〆を施し、内臓も処理した上で、氷もしくは氷水での冷やし込みまで行われます。その間、わずかに10分から15分!

マグロ1本に対して、この手間とは凄いですよね。マグロ100トンを同時に獲るまき網と味に差が出るのは、子どもでも容易に分かる話ですよね。

それでも、海を管理する水産庁は「親を獲っても子は減らない」、「産卵期のまき網は資源に影響ない」との一点張りで、まき網漁に規制を掛けません。しかし、実際には境港のまき網漁を行った後は、わずか5%程度のマグロしか北上できないと見られています。

そして、他のサステナブルな漁の好例としては、長崎県・壱岐市勝本町です。

勝本町の漁師は海へのダメージを鑑みて、網を使わず一本釣りのみでマグロを獲ります。かなり早い段階でサステナビリティを意識された漁港かと思います。しかし、全体的な資源量減少の影響を被っており、2005年に358トンあった漁獲量は、2014年には23トンにまで減少しております。2005年まで遡らず、2012年と比較しても僅か2年間で145トンから23トン(6分の1強)まで減っている異常事態です。

真面目に資源のことを考えている漁師たちが割を食うとは、おかしな話です。

最後に、マグロへのダメージが少ないとされる漁としては、他に延縄漁があります。

江戸期の延享年間(1744~48)に房総半島で生み出された伝統漁法で、前述の戸井で行われている漁となります。これは、最大で150kmの縄に2,000本以上の仕掛け針と餌を付けて釣ると言う、壮大な漁法です。

そして、所要時間は縄を投げるのに4時間、魚が掛かるのを待つのに5時間、引き上げるのになんと12時間。針が2,000本と聞くと、漁獲量に影響があるのではないかと思われるでしょうが、それでも釣れるクロマグロは5~10尾程度。延縄漁は狙った魚をピンポイントで釣れるため、獲る魚の漁をコントロールしやすいと言われています。他のマグロを含んだ総量でも1回の漁で1~1.3トンと言われるので、ターゲットのマグロを100トン獲りつつ、ターゲット以外の魚も釣るまき網漁とは雲泥の差です。

壱岐や対馬の漁師は、漁獲量の回復を優先すべく、産卵期の漁を自粛しました。また、定置網漁や一本釣りには水産庁の制限が設けられております。しかし、最も負の影響力が大きいまき網漁は続行されている状況です。、まき網船団は大手水産会社の子会社であり、まき網会社で構成される「まき網協会」は水産庁役人の天下り先となっている状況なので、それが全ての原因になっている次第です。

まとめ

以上、今までに収集した情報をもとに(比較を経て)記事をまとめました。

すしログ

その上で、僕が一つだけ強調したい事は、マグロを口にするならば事実を知っておくべき、と言うメッセージです。

資源管理は政策なので、国にしか出来ません。

しかし、原初の主要因がまき網漁であり、水産庁の施策であると特定されているならば、個々人がその事実を知って食と向き合うべきでしょう。

太平洋クロマグロの産卵場の大半は日本のEEZ(排他的経済水域)内にあるとされています。

他の魚の漁獲量減少に関しては、他国のせいにする報道が散見されますが、マグロについては日本の経済政策によって日本が主犯となっている状況です。

 

今回は少し硬い内容となってしまいましたが、当ブログを読んで頂いている方は、間違いなく全員が魚好きな人だと思います!

一番良い時期に美味しい旬魚を食べるため、食の持続可能性=サステナビリティを意識する事は今後一層重要になってゆきます。

このような記事を書き、何がどうなるかと言ったら、何も変わらない可能性の方が高いでしょう。

しかし、一人でも多くの読者の方に響いたならば、書いた甲斐があります。時代は個々人の意識が変わる事で動いていくものなので…

共感を抱いて頂いた方がおられましたら、ぜひとも友人・知人の食好きの方に、情報を共有頂ければ幸いです。

美味しいマグロを守るために。

美味しいマグロのお話は、今度「旬魚」コラムでいたします!

鮨が10倍楽しくなる旬魚の世界 No. 16~秋・冬~マグロ(鮪)

※グルメブログの「コラム」なので、敢えて引用文献は明示いたしません。主観的記述となりますが、客観的事実に基づく点をご了解頂ければ幸いです。

【追記】

本記事を書いたのは2018年11月。約1年後の2019年12月にテレビ東京「ガイアの夜明け」にて、【“マグロ激減”の謎…追跡400日】という特集が放映されました。インパクトが大きく、世に広く知られるきっかけとなり、いち魚好きとして嬉しく感じました。

2019年12月3日放送 追跡!”マグロ激減”の謎|ガイアの夜明け : テレビ東京

今後、著名人や知識人、食関係のインフルエンサー諸氏も当問題に向き合って頂ければ幸いです。まだまだ問題意識が低い状況ですので…

 

政治的な偏向は全く無く、純粋に魚が大好きな、すしログ(f:id:edomae-sushi:20201002142555p:plain@sushilog01)でした。

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