すしログ No. 183 近松@薬院(福岡県)

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こちらは福岡県で絶大な人気を誇る鮨店です。

完全紹介制と言うハードルの高いお店となり、その上、10月に翌年の予約が埋まってしまう程の人気との事。

ただ、その人気の理由は、昔ながらの常連さんに支えられているから。

昔から値上げを行っておられず、柳橋連合市場から仕入れると言う、地元密着型の姿勢には、頭が下がる思いです。

東京で人気と共にグイグイ値上げするお店とは、提灯と釣鐘、月と鼈程の違いと言えるでしょう。

食とは需要と供給に基づくものなので、職人さんの心意気のみならず、客層も良いと言う事が窺い知れます。

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お店は住宅地にあるアパートメントの1階に入っており、知らなければ素通りしてしまう外見です。

暖簾を揚げられる前に到着しましたが、実際、気付かずに通り過ぎてしまいました(笑)

店内は昼であっても上質な暗さと明るさがあり、煌びやかな装飾は皆無です。

黒壁には、一輪の椿…

親方のさりげない美意識に心が和みます。

床には打ち水、空気は清浄そのもの。

予約困難店と言っても、親方は寡黙で誠実な対応。

ひたすらご自身が今お持ちの技術と向き合い、ストイックに掌(たなごころ)を見つめてられるように感じました。

それが握りにも現れ、4~5手で酢飯を精確に形と成し、最後に立てて掌で包み込むようなフォームが印象に残りました。

手をポンと打ち鳴らしたり、捨てシャリも皆無でした。

シャリは米酢のみを用い、やや強めの酸味、やや硬めで、温度はタネに最適。

頂くと、最後に2~3粒残るような米のほどけ加減で、理想的と言えます。

山葵は卸金でこまめにすり、その後に軽く練って食感を整えておられました。

ガリは甘みが非常に低く、キレがある味わい。

皮は少し残し(包丁の腹で削いでおられるのでしょう)、薄切り。

握りの台は鳥栖にある瓦屋さんの器との事で、どっしりしつつ上品なデザインです。

蛸の柔らか煮

焙じ茶で1時間茹でた後、40分蒸したもの。

柔らかく仕上げつつ、食感が程良く残っており、中心部のむぎゅりとした食感が気持ち良い。

色々試された末の仕事との事。

茹で空豆

この後、握りに移行し、途中数品酒肴を挟みます。

アオリイカ

極薄に引いた幾枚もの烏賊を、包丁で軽く叩き、握る。

舌に絡まり、蕩けるアオリイカ…

アオリイカの甘みを引き出す秀逸な仕事。

そして、何よりも包丁の技で魅せるタネを一貫目に据えておられる点が粋だ。

肉厚な切り付けで、トップには縁側を添える。

朝の5時に締めたもので、塩を振って寝かせている。

最初は身と縁側の食感が分かれるが、一体化した後に甘みが炸裂する。

食感はプリプリしつつ、ほどけ加減が良い。

鮃は食感があった方が良い。

コノワタの茶碗蒸し

海を感じる茶碗蒸し。

「す」は皆無で滑らかだった。

針魚

塩を振り、酢で軽く洗ったもの。

プリプリで旨味を凝縮しており、シャリとの相性が抜群。

ノレソレ

握りではありません(笑)

鮪赤身

かなり包丁を立てて切りつけておられた。

温度は非常に気を遣っておられr、漬け時間は3分くらいだろうか。

旨味が非常に強く、漬けにより引き立てていた。

酸味もしっかりあるのに、甘みも芳醇で、実に美味。

これのみ自身から産地を伺ったが、舞鶴との事だった。

これを頂き、良い鮪は東京(築地)に流れると言う定説が必ずしも真でないと知る。

小鰭

天草。しっとりな〆加減で、旨味と香りが波状的に広がる。

皮目を感じさせる〆だが、端正な皮目で、しゃくりとした後に消える。

メヒカリの焼きもの

香りと脂が食欲を刺激強く刺激する。

やりすぎておらず、鮨店の酒肴として小粋である。

産地は愛知。

鮪大トロ

壱岐。端正な味わいの大トロ。

旨味の後に酸味が来て、香りも楽しませてくれる。

更にふつふつと旨味が充満し、バランスの良い味わいだ。

赤貝

豊前海産。ヒモごと握る。

シャリの塩気が赤貝の旨味に協奏し、主張し合う。美味。

ふぐ白子

舌を甘やかす旨味!焼いた後の温度調整が秀逸である。

更に珍しい事にダイダイを使用し、塩と共に調和させる匠の仕事。

ダイダイの軽い酸味と風味が実に合う。

車海老

女性には半分で供されるが、握ってから半分に切るのではなく、半分を各々握られており、感銘を覚える。

車海老を半分に切るのは「優しさ」だと解釈されているが、手練の職人であっても切断面のシャリを押し潰さずに両断するのは至難の技。

往々にして、切断面のシャリが食感にもたつきを与える。

半分の食べ易いサイズであってもベストの美味しさを追求されている点には、端から見ている男の立場でも喜びを禁じ得ない。

大型の車海老は甘みと繊維のほどけ加減が良く、絶品。

炙り。ねっちりと甘く、熟成を掛けていると思われる。

燻蒸によって香りと軽い酸が与えられ、モダンな仕事になっている。

斜めではなく縦に切り付け、薄切りにしたものを三枚重ねて握る。

断面はピンク色が美しく、頂いてみても、強い脂を巧く御しており、良い〆の塩梅。

鯖は時期を考慮して良いモノであったが、五島産との事。

筍の吸い物

鮨店でお吸い物とは珍しい。

筍はほろ苦く、生若芽のシャクシャク感、キリッとした鰹出汁が粋である。

カマス

炙り。これにもダイダイを。

カマスはホロホロの食感で、炙った香ばしさ以外にカマスの香りも楽しめる。

ダイダイの酸が軽く引き締め、爽やかな握りに。

穴子

程良く食感を残し、みっちりした火入れだが、噛み締めるとさらり、トロッと消える。

煮ツメ割と濃厚で古典的な味わいを楽しめる。

玉子

玉子も室温に戻されていたのが印象的!

スポンジ生地的な軽くふわっとした珍しい食感。

海老の香りは柔らかく、甘みも強過ぎない。

食事としての玉子とデザートとしての玉子の中間的立場のの玉子であった。

真鯛 追加

薄切りにして三枚を握る。

鯛本来のしっかりした甘みがあり、身がみっちりしている。

伺ったところ、海水より濃い程度の立て塩を行い、寝かせているそう。

他のタネに無い仕事を楽しませて頂き、追加して良かった。

干瓢巻

やや甘めの味付けで、たっぷりと詰めて巻かれる。

東京以外でも、干瓢巻で締めるのは鮨好き冥利に尽きる。

東京にあれば頻繁にお伺いしたい名店中の名店です。

米酢のシャリで匹敵するお店は多くはないかと…

店名:近松(ちかまつ)

シャリの特徴:米酢のみを用い、やや強めの酸味、やや硬めで、温度はタネに最適。

予算の目安:10,000円~

最寄駅:薬院大通駅から350m、赤坂駅から1,000m

TEL:092-716-5855

住所:福岡県福岡市中央区薬院2-6-19

営業時間:お昼12:00~14:00、夜18:00~21:30 ※お昼は水~日曜のみ

定休日:月曜、月に一度連休有り

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