すしログ日本料理編 No. 128 やまさ旅館@安心院(大分県)

こちらは大分県安心院(あじむ)で1920年(大正9年)から続くスッポン専門店です。

やまさ旅館暖簾

初代は、大正時代の食通・木下謙次郎の勧めにより専門店を開業されました。

やまさ旅館看板

木下謙次郎は自著『美味求真』の中で、「あにこれ鼈の高産地としての総ての条件を完備させる理想の水郷ならずや」と、安心院の地を最高のスッポンの生産地として挙げております。

木下謙次郎の美味求真

現代においては色々な産地があり、全国各地の高級店では、浜名湖の服部中村養鼈場が高いシェアを誇りますが、大正時代に随一と言われた安心院で頂くのも乙なもんです。

こちらのコースのバリエーションは幅広く、お手軽な【すっぽん定食】3,200円(税込)に始まり、最高峰の【美味求真コース】13,000円(税サ別)まであります。

我々は折角なので【美味求真コース】を予約の上で訪問しました。

なお、臼杵の喜楽庵さんも同様ですが、これは現地ならではの極めて良心的な価格だと思います。

こちらのスッポンは1kg以上まで育ったものを使用されており、調理する1ヶ月前から敷地内のいけすで餌断ちを行い、臭みや独特のクセを取り除いておられます。

【美味求真コース】は正にスッポンのフルコースであり、間違いなくここでしか頂けない味があると感じました。

特に、【スッポンのお造り】と【スッポンの肝焼き】は、記憶に強く残る鮮烈な味わいを覚えました。

木下謙次郎の言葉、「其の肉の特徴として、多食して飽満の気を起こさず、食へば食ふほど逸味の加はる感あることなり」は的を射ており、上質なスッポンは量を食べてもキツくないのが素晴らしいです。

なお、今回は貴重な天然モノを使用されておりました。

これは真冬に伺ったのでビックリ。

基本的に養殖モノは養鼈場から仕入れているそうですが、これから自社養鼈場を運営して質の高いスッポンを供給されようとしております。

伝統に胡坐をかかない点が時代の淘汰に負けず名店として残っている所以でしょう。

スッポンの生き血

スッポンの生き血

オレンジジュースと半々で割っている。

さっぱりだが血の余韻が爽やかに漂う。

ノンアルでなければ、日本酒と合わせてもらえる。

スッポンの珍味

エンペラの湯引き

エンペラの湯引き

"胎卵の塩漬け

胎卵の塩漬け

生レバー・睾丸・心臓の酢のもの

生レバー・睾丸・心臓の酢のもの。

生き血の後にマニアックな構成!

押しなべてクセは無く、胎卵の塩漬けの濃厚な旨味が特に印象深かった。

旨味のみならず、ほのかな野趣がふわっと残る。

尚、胎卵の塩漬けはwebだと10個1,980円と非常に高級!

エンペラの湯引きはコリコリした食感が持ち味で、自家製ポン酢と針生姜で。

生レバーは臭みが無いのでコクを楽しめ、ハツはぷるぷるした食感と瑞々しさが鮮度を証明する。

スッポンのお造り

スッポンのお造り

白っぽい方が胸肉との事。

これまたクセが全然無く、食感の違いが面白い。

胸肉は滑らかな口当たりでシャクシャク。

スッポンのお造り

赤身はむっちり、もぎゅもぎゅと言った感。

そして、旨味は赤身の方が強かった。

スッポンの甲羅出汁スープ

スッポンの甲羅出汁スープ

4時間以上煮込んで作る、こちらのスペシャリテの一つ。

まろやかな旨味にスパイスを上品に利かせている。

スッポン出汁の茶碗蒸し

スッポン出汁の茶碗蒸し

これは素晴らしい完成度。

ゼラチン質が豊富で、旨味の結晶体。

中には身が入っており力強さも感じさせる。

繊維質は滑らかトロトロ。

百合根を加えて甘みを付加。

スッポン鍋の野菜

スッポン鍋

スッポン鍋

鍋は有田焼の特注品。

鍋には一般的な「まる鍋」とは異なり、生姜や醤油を用いず、「水炊き」として提供されている。

スッポン鍋

"大分味一ねぎ

ネギは大分がブランディングしている「大分味一ねぎ」を使用。

香り強く、シャキシャキで鍋に合う。

スッポン鍋

そして、肝心のスッポンはホロッホロ。

スッポン鍋

骨周りはゼラチン質が豊富で舌が喜ぶ。

スッポン鍋

胎卵はとろろんと美味で、香りも楽しめるのは前述塩漬けと同様。

ポン酢はほのかな甘みがあり、出汁をしっかり利かせている。

やまさ旅館の柚子胡椒

フルーティな味わいの柚子胡椒も良かった。

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スッポンの唐揚げ

スッポンの唐揚げ

味付けがしっかりだが、野趣も強いのでバランスは取れている。

旨いが、油切りが少々雑だったのが残念。

鍋の前くらいに団体さんが到着して騒然としていた為か…

スッポンの肝焼き

スッポンの肝焼き

白眉!巨大なサイズでインパクト抜群だが、味は繊細。

レアに仕上げており、身はふんわり、しっとり。

臭いや苦みは皆無で、ひたすら旨味が席巻する。

スッポンの炭火焼き

スッポンの炭火焼き

これもまたしっとりジューシィに焼き上げており、強い炭の燻香が相性良し。

スッポンの雑炊

雑炊

スッポンの雑炊

お米は自家農園で栽培した無農薬ヒノヒカリを使用し、調味料は九州らしい甘醤油。

スッポンの旨味と香りに満たされており、豊富なゼラチン質により唇がペタペタに。

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個人的に、甘醤油でない方が良いように思えた(九州でお造りを頂く時などは寛容な自分ですが)。

スッポンのシャーベット

水菓子

なんと、スッポンのシャーベット!

スッポンの出汁を使用され、柚子と合わせている。

すっぽんの香りがほんのり漂い、柚子の酸味がキリリと〆る。

日本広しと言えども、かなりマニアックなお店かと思います(笑)

 

店名:料亭 やまさ旅館(やまさりょかん)

食べるべき逸品:安心院のスッポンのフルコース

予算の目安:3,200円〜

最寄駅:なし

TEL:0978-44-0002

住所:大分県宇佐市安心院町下毛1785

営業時間:11:00~15:00、17:00~20:00

定休日:要問合せ

※完全予約制です

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