すしログ日本料理編 No. 125 比良山荘@(滋賀県)

小浜から大原経由で京都へと続く、鯖街道。

朽木谷のあたりは独特の食文化、郷土料理が残っているエリアですが、界隈で突出した知名度を誇っているお店は、間違い無くこちらでしょう。

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世間的に超有名になったのはここ数年内のように思いますが、実は1959年(昭和34年)創業と言う、老舗中の老舗。

10年ほど前から訪問したかったものの、近年余りにも人気が高くなったため、腰が重くなっておりました。

今回は、その反動あってかシーズンに2回訪問すると言う荒行(笑)

2ヶ月おいて、こちらご自慢の熊肉を堪能させて頂きました。

ちなみに、「型」が決まっているコースなので、2回訪問して楽しめるだろうか?と言う不安も実はありました。

しかし、鍋以外の料理が結構異なっていたので、不安は杞憂に終わった次第です。

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お店は森の手前で威容を誇っており、夜に伺うとあたかも「千と千尋」に出てくる建物のようです。

店内はイメージとは裏腹にリフォームされており綺麗。

こちらの代名詞となる熊肉を用いた【月鍋コース】は20,000円。

サービス料15%が加算された後に税金が掛かるので、実際は料理のみで24,840円となります。

エリアを考慮すると突出した高級価格。

しかし、熊肉のクオリティは抜きんでており、肉質的にも調理的にも、他では味わえない魅力があるのは間違いありません。

料理の詳細は後述しますが、紛れも無く脳裡と舌に焼き付く味わいでした。

そして、味と共に感銘を覚えたのが、ご主人の熊肉処理への探求心。

特別な血抜き方法を10年かけて考案され、しかも、その方法を様々な猟師に伝播されております。

「におい」が臭みにも香りにも成り得るのが、血抜き。

繊維質の食感や旨味にも影響を及ぼしますが、大半の方がジビエ肉を苦手になる理由は、臭みなのではないでしょうか。

僕も幼少の頃に頂いた猪は臭みが気になり、長い間ネガティヴなイメージを抱いておりました。

なので、ご主人の心意気に感銘を覚えた次第です。

また、2回お伺いしたからこそ実感出来た事として、熊は個体差が非常に大きいと言う点があります。

初回と2回目で味、香り、食感が異なり、これは貴重な発見でした。

個体差が大きい以上、地域のみならず、〆方、処理、時期なども味に影響するのは自明。

野獣肉と言うのは、奥深い食材だと再認識しました。

尚、熊肉自体の美味しさで言うと、冬眠・冷凍前の11月末のものが上を行きました。

脂の旨味、香り、口溶けなど、全てが1月よりも上でした。

以上の通り鮮烈な印象を覚えたお店なのですが、一つだけ気懸りな点はサービス。

初回に伺った際、鍋のオプション具材として松茸を薦めてこられたのですが、尋ねるまで価格を名言されなかったのは残念なところ。

松茸は山口県産で「今の時期は貴重」との談でしたが、傘が開き、軸が細く、水分が飛んでおりました。

明らかに一日以上前に採られたものでしたが、価格を伺ったところ、「100g15,000円程度」との事。

グラム価格では総額が分からないので、総量も伺ったところ、「250gくらい」とのご回答。

つまり、サービス料と税金を加えると、250gで46,575円。

キロ換算すると186,300円もの松茸となってしまうので、お断りさせて頂きました。

折角、御料理の味わいが美味しいので、オプション料金は誠実に伝えられた方がベターかと思います。

以下、2回分を立て続けにご紹介致します。

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八寸

右上から天然舞茸と菊花の酢の物、鮎のナレズシ、青干しゼンマイの寿司、アマゴの稚魚の南蛮漬け、松茸の旨煮、栗の天麩羅、銀杏とむかご、鹿肉のロースト。

酢の物は酢の強い酸味に加えて、柑橘の酸味も付加している。

同時に、アマゴの酸味も強いので、酢の使用量はお店の特徴だと感じた。

個人的にヒットしたのが、青干しゼンマイと鮎のナレズシ。

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鮎のナレズシは旨味が強く、卵の風味や食感も楽しませてくれた。

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お造り

鯉のお造りと、鰻の焼き霜造り。

あしらいは黄人参と万木蕪(ゆるぎかぶら)。

鯉は比良の水で半年間、泥を吐かせたものとの事。

非常に強い旨味で、臭みは皆無。

京都のなかひがしさんと双璧を成す鯉の造り。

鰻は脂が中々に強く、これは炙りで旨味を活性化し、強めの燻蒸を付ける仕事が奏功している。

なお、酢味噌は酢の塩梅が優しく、非常に上品な味わい。

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子持ち鮎の焼きもの

あしらいはミズ。

もの凄い卵の量に驚くと共に、しっとりした焼き加減に満足。

これは鮎の旬にも伺ってみたくなった。

続いて鍋に移ります。

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鍋は中川一辺陶(信楽雲井窯)さんの特注鍋。

炭火なので、周囲に良い香りが広がります。

レンゲなどの食器は寺地茂(京都WESTSIDE33)さんのもの。

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美しい熊肉!!これは否応無しにテンションが上がる!

極薄だが、なんと手切りとの事。

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当地では11月1日に解禁となり、本日(11月下旬訪問)のものは夕方に締めた熊であった。

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野菜は芹、クレソン、九条葱など、全て地のもの。

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キノコは原木栽培のなめたけとひらたけ。

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圧倒的な脂の旨味。

そして、口の中で瞬時にとろける。

赤身部分は野趣に満ちている。

余韻が圧巻。

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また、こちらの熊鍋を最も特徴付け、人によっての評価を分ける点が、蜂蜜の使用。

頂く前は少々不安があったが、蜂蜜が熊の脂を包み込みつつも、脂の甘みが超えてくる。

そして、脂は粒子のキメが細かく、すぐに弾けて溶けるため、ベッタリとまとわりつくところが皆無。

よって、程良い量の蜂蜜と調和する。

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熊の塩焼き

赤身でありながら、思ったよりも歯切れが良い。

また、熊の赤身としては香りも上品。

最後にふわっと漂う熊香は、あたかもナッツ的。

赤身を頂くと淡白な印象を受け、脂の凄さを再認識させられる。

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猪鍋に向けて、味噌味にシフト。

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雑茸(ぞうたけ)

アミタケやナメタケを塩漬けにして、冬を越すための保存食。

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猪鍋

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ぷりっとした脂は、口に含むととろけゆく。

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脂は熊よりも濃厚であった。

猪にはクレソンを投入。

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トチモチ

作るのが面倒な事で有名なトチモチ。

しかも、大振り。

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通常のお餅よりも嬉しい。

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三輪うどん

鍋の〆のうどんは、煮込み過ぎないのががセオリーだが、三輪のうどんについては、煮込んでももっちりしているので、育った鍋のツユを満喫すべく、煮込んだ方がベターである。

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安曇川のお米

小粒なお米で、適度にもっちりしている。

炊き加減は硬め。

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雑炊ではなく、汁掛けにすると美味しかった。

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水菓子

栗のアイスクリームと山の冬苺。

ラム酒を軽く用いているところが魅力!

続いて2回目の訪問です。

結構な違いがあり、面白かった。

個人的に、純粋な「肉質」以外の「料理」に関しては、2回目の訪問の方が琴線に触れました。

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八寸

近江富士を模した皿に、初日の出をイメージした梅干し。

鯉の子、味噌漬け大根、松茸の旨煮、鮎のナレズシ、川海老、チョロギ、鹿肉のロースト。

川海老は甘く、香りも楽しめる。

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最も面白かったのが、今回も鮎のナレズシ。

旨味が実にしっかりしてる事は前回同様だが、酸味がかなり高くなっている点は魅力的であり、旨味と酸味のバランスが個人的にはヒットした。

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中でも意外だったのは、チョロギ。

着色料を用いる事に加えて、カリッと仕上げる事が多い素材だが、優しい酢加減で、ほっくりとした食感に仕上げていた。

そして、大根の味噌の塩梅も優しく、前回の酸味が強い八寸よりも端正な印象を受けた次第。

唯一、鹿肉のローストがモソッとした食感であったのが残念。

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お造り

前回と同様に鯉と鰻。

あしらいは紅芯大根、万木蕪、黄人参、二十日大根、壬生菜、三ツ葉。

鯉はぷるぷる、パツパツで心地良い食感で、矢張り旨味が強い。

鰻もまた安定の仕事。

黄人参の甘みが前回よりも強くなっていた点は嬉しい!

それでいて、人参特有の香りは優しかった。

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鯉の白子の蒸しもの

餡は香茸を用いた餡。

大変創作的な一品だが、味の完成度は高い。

みっちりした濃密な食感に、濃厚な旨味。

白子のクセは無くない、あたかもクリームを用いて蒸したかのよう。

香茸は香りが強過ぎず、良きアシスト。

生姜も抑制を加えている。

熊鍋

先ず、前回はやらなかった常温でツユをテイスティング。

すると、殊の外、鰹がしっかり利いており、甘みも強い。

熊と頂くのとは異なる印象を抱き、熊との相性の高さに、秀逸なツユである事を改めて実感する。

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熊肉は、ひたすら旨味が強い。

ただ、11月末の〆て間も無いフレッシュなモノよりも、脂の溶け加減ならびに赤身部分の柔らかさは下を行くか。

但し、異なる野菜を順次投入する事で違う楽しみを演出してくれるため、魅力は大きくは色褪せない。

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そして、野菜については冬が深まった方が美味。

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特に、ネギは香り豊かで甘い。

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熊の脂を纏った菊菜、うぐいす菜も美味。

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熊の塩焼き

今回は前回よりもしっかりした食感で、身が引き締まっていた。

そして、熊の香りがかなり強い。

前回のナッツ香と言うよりは、熊の香り。

よって、山椒で頂くとバランスが良かった。

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猪鍋にシフト。

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熊肉とは裏腹に、今回の猪は前回よりも上。

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脂の歯切れが極めて良く、美味!

脂が甘〜く、香りは上品。

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自然薯雑炊

2018年の新作との事だったが、これは素晴らしい料理だった。

こちらの熊肉、猪肉の鍋の総合芸術とも言うべき逸品。

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とにかく圧巻の旨味!

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煮詰まっていても塩気や甘みが強まりすぎていない点も良かった。

そして、複合的なとろみも楽しい。

肉のゼラチン質、自然薯は勿論、トチモチやお米の粘度が加わり、濃密で甘美。

根底に上質な脂の存在感がひたすら在り、感動した。

尚、自然薯には卵を溶いて混ぜている為、火が入ると甘みが活きてくる。

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水菓子

金柑のシャーベット、山の冬イチゴ。

金柑は皮ごと用いられており大人の美味しさがある。

 

店名:比良山荘(ひらさんそう)

食べるべき逸品:月鍋

予算の目安:月鍋のコースは税サ込24,840円

最寄駅:なし、京都駅から車で60分程度

TEL:077-599-2058

住所:滋賀県大津市葛川坊村町94

営業時間:11:30~14:00、17:00~19:00

定休日:火曜

※完全予約制です

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