すしログ日本料理編 No. 18 いち太@外苑前

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こちらのお店は、昨年11月末に刊行された某グルメ本で知り、光るものを感じました。

この度、美食家の大先輩をお誘いして訪問しました。

 

お店は外苑前から少し歩いた閑静な一角にあり、新築の建物は極めて瀟洒です。

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道路からお店までのアプローチが長く、歩を進める度に期待が高まってゆきます。

ご主人も、このアプローチを気に入って物件を借りられたようです。

外観は「日本料理ぽくない」ので、普段日本料理に行かない若い人も入りやすい筈。

デートとなると、どうしてもイタリア料理、フランス料理を選ぶ方が多いのが実情ですが、こちらのお店は店内もすっきりしていて重々しさは皆無なので、選択肢に入れておくと良いかと思います。

 

お店のカウンターはラオスヒノキ製。

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日本のヒノキよりも木目が詰まっており、色が濃いのが特徴。

その色合いゆえ、ある種洋風の雰囲気を醸し出しており、外観と合っているように感じました。

 

料理のコースは13,000円から用意されているとの事。

予約の際に上のコースでは蟹が付いてきたり、河豚のコースもあるとお伺いしましたが、正直なところ蟹は価格に素直に従う素材なので、一番廉価なコースをお願いしました。

なお、予約時の電話の応対も清々しく、安心感を抱きました。

 

料理は全体的に抑制が利いており、素材を活かす確かなセンスを感じます。

ピンの素材ではなくても技術の高さを実感する事が出来る料理で、コースの組み立て方も巧い。

既に幾つかの有名店を凌ぐのではないか?との予兆を感じさせる、玄人好みの調理だと思います。

美味しさだけでなく、素材の選択が限られている中でお客さんを楽しませようとする心意気を感じ取りました。

実に真摯で質実剛健な料理です。

 

そして、詳細は後ほど記載しますが、〆の蕎麦の技術も非常に高い。

東京の日本料理の〆としては、分とく山の登場以来、土鍋ご飯が主流となっているように感じますが、蕎麦で〆るのも爽快で良いなあと心から思わせてくれる、キリリと香り高い蕎麦です。

 

トータルで考えて、非常にポテンシャルを秘めたお店だと感じました。

明らかに人気が出そうなので、予約の難度が上がり過ぎない事を…

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頂いた御料理は下記の通りです。

汲み上げ湯葉、蕎麦の実添え

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茨城の常陸秋と自家製の汲み上げ湯葉。

鼈甲餡の甘みが蕎麦の輪郭を浮き立たせ、湯葉の柔らかな甘みが包み込む。

葛の使い方も良い。

一品目を頂いてニヤリとする。

 

野芹、原木椎茸、エノキの煮浸し

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味覚や香りのバランスに長け、その調和に切り付けの妙を感じる。

わずかに使用された数の子や柚子皮も上品。

根底を支えるのは穏やかな鰹出汁の塩梅。

 

鯖の棒寿司

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鯖は小さな魚体だが、それなりに脂があり楽しめた。

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ただ、やはり大きな鯖を頂きたくなりました(笑)

小箱の中身はこちらです。

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椀(桑名の蛤、筍、若芽)

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白眉。蛤は柔らかすぎず、硬すぎず、程よい火入れ。

ご主人いわく、火入れが弱すぎると出汁が出ないとの事。

蛤は肝にも甘みを宿しており、爽やかな苦みがじんわりと染み渡る。

鹿児島の若筍は甘みと香りが非常に強く、佐島の新若芽も穏やかに寄り添う。

素材は定番の組合せながら、蛤の扱いと出汁によって個性を提示している。

蛤の椀としては、高知のふじ味さん以来の完成度。

 

カワハギの和えもの、ポン酢ジュレ 

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カワハギの身、身皮、肝を用いた和えもの。

一瞬、ポン酢の味わいが強いと思うが、ご主人の言う通り混ぜて頂くと絶妙。

カワハギは身自体に甘みがあり、噛みしめる度に味わいが増す。

ポン酢ジュレの味わいもさることながら、僅かに使用した穂紫蘇が良い。

煮浸しでも感じたが、主役を引き立てるための仕掛けが巧み。

 

お造り(アオリイカ、赤貝)

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徳島のアオリイカ。

包丁を浅く、多く入れており、舌に触れ噛みしめた瞬間に甘みがダイレクトに伝達。

包丁の技だけでなく、一日寝かせたという旨味の引き出し方にも妙有り。

赤貝は「閖上を入れられなくて…」との事で山口のもの。

確かに閖上の上モノに比べると旨味の粒子が少ない(口の中で弾ける感覚が弱い)が、目利きは中々なのでは?とと思わせてくれた。

色々と話を伺うとご主人はお客のお会計に跳ね返らない形でモノを選ばれており、一等地で素晴らしい覚悟だと痛感する。

醤油は「田舎醤油」と言う再仕込み醤油を使用しているそうだが、再仕込み醤油特有のエッジが立っていたリコクが強すぎたりせず、刺身に合っている。

 

メジの焼き霜造り

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壱岐。これも白眉。藁火での柔らかな火入れと上品な燻香の付け方が秀逸。

調理によってメジの脂が活き活きしている。

噛みしめると舌を魅了する脂が滲み出て、燻香がふわりと漂い、メジの香りも楽しめ

る。
一言で、センスを感じさせる一品だった。

 

柳鰈の焼き物

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常磐の柳鰈。

鮨店で用いる鰈に比べると家庭的な味わいの柳鰈だが、炭火の火入れ加減が良く、安心出来る味わい。

付け合せは椎茸、骨焼き、姫大根。

 

白魚の天麩羅、梅肉ソース

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宍道湖。

季節ものの白魚をふんわりと揚げ、梅肉ソースは梅が主張し過ぎず完成度が高い。

しかし、揚げ方がフリッター的で、衣の食感に欠ける点がネック。

繊細な白魚であるが故にサクッと揚げた方が魅力が高まると感じる。

 

海老芋の煮物

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海老芋は京都産。

海老芋の力強い旨味、香りを引き出しており、芹の餡も名脇役。

 

蕎麦

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極細で、香り、のど越しともに抜群。

ツユも鰹を爽やかに使っており、コクを活かし、嫌みは無い。

本枯節が中心である模様。

醤油は穏やかで、キリッとしている。

聞けば、こちらは再仕込み醤油ではなくヤマサの本醸造。

蕎麦湯は蕎麦粉を付加した濃厚タイプ。

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お替りが1回出来るなんて、大変嬉しい!

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薬味

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水菓子

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三種類から選べたので、【和栗のババロア】をチョイス。

とろとろと非常に柔らかなババロアで、淡い甘みがさらりと〆る。

 

お酒は生ビールで喉を潤した後に、男山辛口純米、上喜元超辛純吟。

お酒のメニューにはお値段が表示されているので明朗会計です。

トータルで16,200円でしたが、実に満足度の高い内容でした。

草花が芽吹く頃に折を見て再訪したいと思います。

 

店名:いち太

食べるべき逸品:センス溢れる構成力の高いコースと、〆の絶品蕎麦。

予算の目安:15,000円~20,000円 →おまかせコース30,250円~

最寄駅:銀座駅から350m

TEL:03-6455-4023

住所:東京都港区南青山3-4-6 AOYAMA346-1F

営業時間:17:30~23:00

定休日:日曜、祝日

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